木を植える覚悟
大学時代、親しい友人が集まり、
人類の文明の将来について語り合っていたとき、
物理学を専攻していた友人が、
思索的な表情で、語りました。
物理学のエントロピーの法則によれば、
この宇宙は、無秩序が増大し続け、
いずれは、すべてのものが平衡状態に達し、
「熱死」(ヒート・デス)を迎える。
それでも、人類の文明の将来を語るのか。
すると、その意見に呼応するように、
天文学を専攻していた友人が、語りました。
たしかに、そうかもしれない。
そもそも、この地球という惑星も、何十億年か後には、
赤色巨星となって膨張する太陽に呑み込まれ、
消滅してしまうのだから。
この友人のやりとりを、懐かしく想い出します。
一笑に付せるようでありながら、
どこか、心に虚無感を忍び込ませる
この二人の友人の言葉。
しかし、
それからの歳月の中で、
その虚無感の暗闇に、
一つの光を与えてくれる言葉に出会いました。
たとえ明日、世界が終わりになろうとも、
私は、リンゴの木を植える。
マルティン・ルターのこの言葉は、
世界が、どう在るかではなく
自己が、どう在るか
その覚悟の尊さを、教えてくれたのです。
感想を送る
皆さんからのメッセージをお待ちしています。ご意見やご感想をお寄せください。「風の便り」へのご意見や感想は、田坂広志の個人メールアドレスにお送りください。
友達に紹介する
この「風の便り」は、皆さんの友人や知人の方へも、遠慮なく送って差し上げてください。
ささやかな縁と共感の輪が広がるならば、幸いです。
風の便り 配信登録
「風の便り」の配信を希望される方は、こちらをご覧ください。