露地庭の石のごとく
江戸時代の大名であり、茶の名人であった
桑山左近に、興味深い逸話があります。
あるとき、桑山左近が、
見事な石を手に入れました。
そこで、その石を
茶室の庭の入口に置いたところ、
ある来客が、
「あの露地の入口の石はまことに立派である」と
その石を褒めたそうです。
しかし、その褒め言葉を聞いた桑山左近は、
少しも喜ばず、
その来客が帰るなり、
その石を他の場所へ移してしまいました。
その理由を問われた桑山左近は、
次のように答えたと伝えられています。
露地庭の石というものは、
決して目立つことなく、
しかし、そこをすっと通って来る間に
気持ちが静まり、浄められるものでなければならない。
この逸話は、
茶の精神における
庭石のあり方について述べたものですが、
人間のあり方について述べたもののようにも思えます。
決して目立つことなく、
しかし、そばにいるだけで、
気持ちが静まり、浄められる。
そうした人物が、
我々の周りにもいます。
しかし、静寂を失った我々の精神は、
その露地庭の石に、
決して気がつかないのです。
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