「魔境」の入口
将棋の羽生善治棋士が、
かつて、七冠を達成した直後のテレビ出演において、
ある若手哲学者と対談し、質問を受けました。
羽生さんは、対局中、
どのようなことを考えているのですか。
羽生棋士の、その質問に対する答えは、
静かな驚きを禁じえないものでした。
ときおり、対局中に、
心が、ふと
魔境に入りそうになるのです。
この答えに対して、
若手哲学者は、無邪気に聞きます。
なぜ、その魔境に入ってみないのですか。
これに対して、羽生棋士は、
いつもの爽やかな表情で、答えました。
ええ、戻って来れなくなると困りますから。
たしかに、この「魔境」とは、
座禅などにおいて、深い瞑想状態に入るとき、
ときおり陥ってしまう特殊な精神状態のことであり、
決してそこに入ってはならないと教えられるものです。
しかし、この微笑ましい対話の、
その奥を、深く見つめるとき、
そこに、極限の真実が潜んでいることに
気がつきます。
精神の営みの最も創造的なものは、
精神が、まさに混沌へと向かう、
その入口において、生まれる。
そのことに、気がつくのです。
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