遥かなる旅路
宇宙物理学において
「対称性の破れ」という言葉があります。
137億年前、この宇宙は存在しなかった。
ただ、「真空」だけが存在した。
そこには、時間も空間も、まだ生まれていなかった。
それゆえ、過去も未来も無く、上下も左右も無い、
完全な「対称性」だけが存在した。
しかし、あるとき、その「真空」がゆらぎ、
大爆発が起こり、一瞬にして、この壮大な宇宙が誕生した。
そして、それは、世界の「対称性」が破れ、
時間と空間が生まれた瞬間でもあった。
「インフレーション宇宙論」と「ビッグバン宇宙論」
この現代科学の最先端の理論を学ぶとき、我々は、
「物理」の世界と「心理」の世界の
不思議な相似に気がつきます。
心理学の世界に
「タブラ・ラサ」という言葉があります。
英国の経験論哲学者、ジョン・ロックが用いた
「白い板」という意味の、この言葉。
我々が、この世に誕生したとき、
まだ、我々の心は、「対称性」の世界にあった。
真偽を知らず、善悪を知らず、美醜を知らず、
愛憎を知らず、幸不幸を知らない、無境界の世界。
しかし、まもなく、
心の中に、世界を二つに区分する自意識が生まれ、
その「対称性」は失われていった。
そして、我々の心は、
その「白い板」に、様々な区分と境界を描き出し、
その境界において、様々な葛藤と苦悩を生み出していった。
そのことを考えるとき、
深遠なる一つの問いが、心に浮かびます。
この宇宙は、なぜ「対称性」を破り、旅に出たのか。
我々の心は、なぜ「対称性」を破り、この旅を続けているのか。
その問いが、心に浮かぶのです。
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