山を越える修行僧
仏道の修行をする師と弟子が、
二人で旅をしていました。
その旅の途上で、川に差し掛かったところ、
若い女性が、川の前で立ち往生をしていました。
着物の裾をあげ、歩いて川を渡ろうとしたのですが、
流れが急で、渡れなかったのです。
それを見た弟子は、
若い女性に心を惑わされてはならぬと
一人で川を渡ろうとしましたが、
師は、黙って歩み寄ると、
その肌も露な女性を肩に担ぎ、
川を渡しました。
女性の礼の言葉を背に、
二人の修行僧は、
その先にある山道を登り始めました。
その道を登り終え、坂道を下り、
その山を越えたところで、
思い余った弟子が、耐え切れず、
師に言いました。
あれは、許されぬことではないでしょうか。
若い女性を肩に担ぐなど、
修行の身で、
してはならぬことではないでしょうか。
それを聞いて、
師は、微笑みながら答えました。
おや、お前は、
あの山を越えても、まだ、
あの女性を担いでいたか。
我々の心は、
いくつの山を越えれば、
担いでいるものに、気がつくのでしょうか。
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