知識人の「落し穴」
遠い昔の夏の日、
ある出来事が心に残っています。
私は、大学に向かうバスの中で、友人と議論をしていました。
それは、「歴史の法則性」についての議論であり、
その頃に読んでいた、ある歴史学者の学説について、
当時、注目されていた難しい学術用語を使って
議論をしていたのです。
そのとき、隣の席に座っていた
労働者と思しき年配の人物が、
突如、私たちに語りかけてきました。
学生さん、「歴史の法則性」とは、何だい。
その突然の質問に戸惑っていると、
その人物は、静かな声で、
しかし、体験の重さを感じさせる
深みある声で、言いました。
「繰り返し」のことだろう。
この出来事が、いまも、心に残っています。
なぜなら、このとき、一人の若い学生が、
大切なことを教えられたからです。
素朴な真実を、
ことさらに難しい言葉で語ること。
それが、「知識人」と呼ばれる人間が、
しばしば陥る、落し穴であることを。
そして、その落し穴から抜け出すためには、
自分の心の中の「エゴ」の姿を、
静かに見つめなければならないことを。
感想を送る
皆さんからのメッセージをお待ちしています。ご意見やご感想をお寄せください。「風の便り」へのご意見や感想は、田坂広志の個人メールアドレスにお送りください。
友達に紹介する
この「風の便り」は、皆さんの友人や知人の方へも、遠慮なく送って差し上げてください。
ささやかな縁と共感の輪が広がるならば、幸いです。
風の便り 配信登録
「風の便り」の配信を希望される方は、こちらをご覧ください。