「作品」の生命力
近年のメディアの発達は、
「映画」という芸術の領域にも、
大きな変化をもたらしました。
その一つが、DVDの普及。
このメディアが出現したことによって、
多くの映画作品が、劇場だけでなく、家庭でも
高品質の画像で鑑賞できるようになりました。
そして、この長時間録画が可能なDVDの出現によって
増えてきたのが、映画の「特別編集版」。
それは、「劇場公開版」においては、
時間の制約から割愛したシーンを復活させたり、
オリジナルとは異なったシーンを挿入したりするものです。
しかし、こうして時間の制約を気にせず、
作品を自由に編集できるようになったことは、
表現者である映画監督にとっては、
素晴らしい状況が生まれたことを意味していますが、
現実には、不思議な「逆説」が生まれています。
「特別編集版」を「劇場公開版」と比べるとき、
なぜか、表現の冗長さや、モチーフの発散が生じ、
作品としてのリズム感や、
芸術としての緊張感が失われてしまうものが
少なくないのです。
そして、そのことを感じるとき、我々は、
「作品」というものの生命力の本質に、気がつきます。
「一回性」
やり直しもできず、作り直しもできない、
ただ一回限りの状況。
その状況を覚悟するとき、「作品」は、
最高の表現を獲得する。
そして、それは、
我々の人生という「作品」においても
真実なのでしょう。
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