「記録」と「記憶」の狭間
遠い昔、米国の知人を訪ねたときのことです。
夕方、彼は、私を誘い、
近くの小高い丘の上に連れて行ってくれました。
そこは、アリゾナの砂漠に沈む
素晴らしい夕陽を見ることのできる場所でした。
その夕陽のあまりの美しさに、
思わずカメラを取り出し、写真を撮ろうとした私に、
その知人は、静かに語りかけました。
この夕陽は、
写真に残すのではなく、
あなたの心に残してください。
素晴らしい風景を見るとき、
その知人の言葉を、思い出します。
我々は、美しい風景を見るとき、
しばしば、夢中になり、
それを写真やビデオに残そうとします。
しかし、そうして懸命に
その景色を記録したあと、
ふと、気がつきます。
心の底から、味わい、
心の深くに、記憶する。
そのことを忘れてしまったことに、
気がつくのです。
この一瞬を、未来へ残そうとするあまり、
この一瞬を、心に残すことを忘れてしまう。
それは、
記録という営みと
記憶という営みの狭間にある、
密やかな陥穽なのでしょう。
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