サイコロを振って決めるとき
ある企業で、マネジャーの田中氏が、
重要な商品開発プロジェクトの意思決定に直面しました。
市場の調査と分析も徹底的に行い、
会議でも衆知を集めて議論を尽くしたのですが、
それでも、この商品開発に踏み切るべきか否か、
メンバーの意見が定まらないのです。
そして誰よりも、
その意思決定の責任者である田中マネジャー自身が、
決断できないのです。
典型的なハイリスク・ハイリターンのプロジェクトであり、
不確実性が大きく、極めて難しい意思決定でした。
会議のメンバーからは、
「田中さん、決めて下さい」との声が無言で伝わってきます。
メンバーは田中マネジャーの力を信頼しています。
最後は田中マネジャーの直観力に委ねようとの雰囲気です。
そうした雰囲気のなかで、
田中マネジャーは目をつぶり、
しばし黙して考え込んでいましたが、
ふと目を開けて言いました。
よし、サイコロを振って、決めよう。
唖然とするメンバーの前で、
偶数ならプロジェクトの実施決定、
奇数ならプロジェクトの実施見送りと宣言し、
田中マネジャーは、静かにサイコロを振りました。
全員が固唾を飲んで注視するなか、
果たしてサイコロは「偶数」と出ました。
プロジェクトの「実施決定」です。
その瞬間に、田中マネジャーが言ったのです。
やはり、このプロジェクトの実施は見送ろう。
さらに唖然とするメンバーを前に、
彼は、言葉を続けました。
いま、サイコロの目が、偶数の「実施決定」を示した瞬間に、
心の深くから、「いや、違う」との声が聞こえた。
自分の直観は、やはりプロジェクトの実施見送りを教えている。
自分は、その直観を信じるよ。
田中マネジャーにとって、サイコロは、
自身の心を映し出す「鏡」だったのです。
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