英雄のいない国
かつて、社会心理学者エーリッヒ・フロムが、
その著書、『自由からの逃走』の中で、
次の主旨のことを述べています。
第二次世界大戦前、
民主的なワイマール憲法の下にあったドイツにおいて、
ファシズムが圧倒的な勢力となったのは、
ファシズムの巧妙さが、本当の原因ではない。
その本当の原因は、
多くの人々の心の奥深くに、
自由に伴う責任の重さから逃れたいとの無意識があり、
その責任を肩代わりしてくれる
強力なリーダーを求める社会心理が生まれたからだ。
このフロムの指摘は、それから80年近くの歳月を経ても、
決して古くならない警鐘として、耳に響いてきます。
「新たなリーダーへの期待と幻滅」
その言葉によって形容される
近年の我が国の姿を見るとき、
改めて、フロムの警句が、心に浮かびます。
「自分以外の誰かが、この国を変えてくれる」
その「依存の意識」から脱し、
我々の精神が成熟を遂げていかないかぎり、
我々は、いつも、
強力なリーダーを求め続けるのでしょう。
そのことを思うとき、
ブレヒトの戯曲、『ガリレイの生涯』の中で、
「英雄のいない国は不幸だ」との言葉に対して、
ガリレイが語った言葉を、思い出します。
そうではない。
英雄を必要とする国が不幸なのだ。
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