「静寂」を待つ
1994年の将棋・竜王戦、第六局、
羽生善治棋士と佐藤康光棋士の対戦でのこと。
開始の合図があったにもかかわらず、
先手である羽生棋士が、なかなか第一手を指さない。
眼を閉じ、考え込んでいる風情のまま、数分間が過ぎていきます。
そして、観戦の人々がざわめきはじめたとき、
羽生棋士は、眼を開け、ようやく第一手を指しました。
このときのことが、後日、
詩人の吉増剛造氏との対談で話題になりました。
吉増氏から、「あのとき、迷いが出たのですか」と問われ、
羽生棋士は、こう答えました。
いえ、そうではありません。
静寂がやってくるのを待っていたのです。
この羽生棋士の言葉は、
一つの真実を、我々に教えてくれます。
最も大切な勝負の瞬間や、
最も重要な決断の瞬間には、
深い直観力が求められる。
しかし
深い直観力が働くためには、
深い静寂心が求められる。
羽生棋士が教えてくれたのは、
その真実でしょう。
そして、この真実から、
我々は、一つの逆説を学びます。
極限の意思決定を前にして、
最も大切なことは、
いかなる「選択肢」を選ぶかではない。
いかなる「心境」で選ぶかなのです。
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