「透明な感性」が予感したもの
先生、気層のなかに炭酸ガスが増えてくれば暖かくなるのですか。
それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、
大抵、空気中の炭酸ガスの量で
決まっていたといわれるくらいだからね。
カルボナード火山島が、いま爆発したら、
この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか。
それは僕も計算した。
あれがいま爆発すれば、
ガスはすぐ大循環の上層の風にまじって地球全体を包むだろう。
そして、下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、
地球全体を平均で五度ぐらい暖かにするだろうと思う。
この対話は、
現在の地球温暖化をめぐっての対話ではありません。
いまから80年余り前の1932年に発表された小説。
そのなかで、主人公たちが行っている対話です。
その小説の作者は、宮沢賢治。
小説の題名は、『グスコーブドリの伝記』。
この小説の、この対話を読むとき、
我々は、静かな驚きを覚えます。
それは、片田舎に住む、一人の詩人の瑞々しい感性が、
人類の未来を予感していたことへの驚きです。
そして、その静かな驚きとともに、
我々は、深い不思議を覚えます。
世界をありのままに見つめる透明な感性は、
ときに、時空を超えて未来を感じとる。
その不思議です。
されば、未来が不透明な時代、
その透明な感性こそが、求められているのでしょう。
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