老化という迷信
世界的なチェロ奏者、ミーシャ・マイスキーが、
あるテレビ番組で、
子供たちに、音楽を教えていました。
そして、その番組の中で、マイスキーは、
子供たちに、一つのクイズを出しました。
バッハの無伴奏チェロ組曲の同じ曲について、
三人のチェロ奏者の演奏を聴かせ、
誰が最も若い年齢の演奏者で、
誰が最も歳を取った演奏者かを、
当てさせたのです。
このクイズの結果は、
静かな驚きを、禁じえないものでした。
子供たち全員が、「最も歳を取った演奏者」と感じたのは、
実は、若い頃のマイスキーの演奏でした。
そして、「最も若い年齢の演奏者」と感じたのが、
それから16年の歳月を経た、
最近のマイスキーの演奏でした。
伸びやかに、軽やかに、
その精神の若々しさを感じさせる演奏は、
ソビエト抑留の苦難の歳月を経て、
年輪を重ねたマイスキーのものでした。
このマイスキーの演奏を聴くとき、我々は、
いま、世の人々が「常識」と思って信じていることが、
実は、一つの「迷信」であることに、気がつきます。
人は、歳を取ると
精神の若さと瑞々しさを失っていく。
そして、それが「迷信」であるならば、
いつの日か、新たな「常識」が生まれるのでしょう。
人は、永き歳月を歩み、
人生の苦難を乗り越えていくほどに、
精神は、若く瑞々しくなっていく。
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