「現実」の豊かさ
1995年に、アメリカで行われた
「バーチャル・リアリティ」の会議に出席したときのことです。
そこでは、「仮想現実感」と呼ばれる最新技術を利用して、
様々なスポーツやゲームを「仮想体験」できるマシンが
展示されていました。
例えば、実際のテニスやゴルフをしているような体験ができる
「バーチャル・テニス」や「バーチャル・ゴルフ」。
そこには、多くの人々が集まって、マシンを試していました。
しかし、最初は競ってマシンを体験する人々も、
しばらくすると、飽きて、他へ移っていきます。
「仮想の体験」は、やはり、
「現実の体験」に及ばないからです。
しかし、そうしたマシンの中でも、ひとつだけ、
飽きないマシンがありました。
「バーチャル・ビリヤード」です。
なぜなら、そのマシンは、
ビリヤードの「球」を突くという体験を提供するものではなく、
ビリヤードの「球」の立場になり、
キューで突かれ、弾け回る体験を提供するものだったからです。
そのマシンを飽きずに楽しむ人々を見たとき、
ふと、気がつきました。
我々の最も深い興味を掻き立てるものは、
「バーチャル・リアリティ」ではなく、
「リアル・バーチャリティ」、
現実を精巧に模倣した「仮想的な現実」ではなく、
現実には体験できない「現実感ある虚構」である。
そして、そのとき、
一つの真実に、気がつきました。
「現実」よりも、深く、豊かなものはなく、
「虚構」とは、その現実の本質を
鮮やかに切り出してみせる、手段に他ならない。
そのことに、気がついたのです。
感想を送る
皆さんからのメッセージをお待ちしています。ご意見やご感想をお寄せください。「風の便り」へのご意見や感想は、田坂広志の個人メールアドレスにお送りください。
友達に紹介する
この「風の便り」は、皆さんの友人や知人の方へも、遠慮なく送って差し上げてください。
ささやかな縁と共感の輪が広がるならば、幸いです。
風の便り 配信登録
「風の便り」の配信を希望される方は、こちらをご覧ください。