我が心は、機械にあらず
遠い昔、ある王国で、
貿易に成功した商人が、その褒美として、
王様から、不思議なハサミを授けられました。
それは、極めて切れ味の良いハサミであり、
軽く触れるだけで、まるで紙を切るように
何でも簡単に切れるハサミでした。
そのハサミが、あまりに切れ味が良いので、
その商人は、身の回りにあるものを
何でもハサミで切り続けていたところ、
恐ろしいことに、いつのまにか、
目に付くすべてのものが、
紙に見えるようになってしまったのです。
遠い彼方の国の、この不思議な物語は、
現代の我々にも、大切なことを教えてくれます。
便利な機械を生み出し続ける科学技術。
それが、あまりにも切れ味の良い道具であるため、
我々は、いつのまにか、目に付くすべてのものが、
機械であると思うようになってしまったのでしょうか。
いま、世の中に溢れる
「人を動かす技術」や「感動させる技術」といった言葉。
そして、「感性工学」や「魅力工学」といった言葉。
それは、人の心までも「技術」によって自由に操作し、
感動や魅力までも「工学」によって生み出すことができるとの
我々の無意識の思い込みなのでしょうか。
我が心は、機械にあらず。
風に乗って、遠くから、その声が聞こえてきます。
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